top of page

ついにGoogleがリテールメディアに本気を出してきた

更新日:6月20日

ネット広告の世界を思いのままに操る巨人Googleが、ついにコマースメディア(リテールメディア)に本気を出した。現在開催中のカンヌライオンにおいて「Commerce Media suite」を発表したのだ。これまでは複数の既存プロダクトを繋ぎ合わせてなんとかリテールメディアを実現させていたGoogleだが、ついにコマースメディア(リテールメディア)への狼煙を上げた形だ。

「suite」の頭文字が小文字なのはプロダクト総称ではないということ?
「suite」の頭文字が小文字なのはプロダクト総称ではないということ?

現状はベータ版で公開情報は少なく、日本での展開も不明

Googleが公にしている情報は短いブログ記事(英文)のみであり、詳細についてはカンヌに参加している限定的な参加者しか知ることができない。6月18日からベータ版が開始したとのことだが、一般ユーザーはまだ利用することができない状況だ。


まず、このソリューションは広告主であるBrand(≒メーカー)側へのソリューションと、広告を掲載する媒体社である小売側へのソリューションという両面に向けたソリューションだ。Googleの宣言はいつも預言者の言葉のように抽象的だが、個別に紐解いていこう。


Google AIがコマースメディアに成果をもたらす

一般的にリテールメディアにおいては、広告主側は個々のプロモーション対象商品選択やターゲティング設定といった面倒があり、小売側は商品マスタや在庫を最新状態にする運用を行うといった面倒がある。Google AIが果たす役割は不明だが、そうした面倒をAIがよろしくやってくれるということだろうか。


先行事例としては米小売大手TargetのRMN(リテール・メディア・ネットワーク)である「Roundel」が挙げられている。おそらくRoundelがアプリ/サイト内にGoogle Search Ads 360を導入したことで、広告主はGoogle広告のキャンペーンとしてRoundelに広告配信でき、店舗を含めた購買効果測定ができるということのようだ。


SKU単位での効果測定と店舗での購買測定

SKU単位での効果測定も試験的に実施中とのことだ。商品別やカテゴリ別の売上データに対して広告の費用対効果を個別に評価できることになる。これがオンライン(EC)だけなのか、オフライン(店頭購買)も含むのかは不明だ。SKU単位、つまりはバーコード(JANコード)単位でネット広告費と店舗売上のデータを突き合わせれば、原理的には効果の推計は可能なはず。限られたユーザーID単位で広告リーチと購買行動を正確に紐づけようとするよりも、むしろ SKU単位でざっくりと因果を検証をする方が早いのかもしれない。



メーカーがGoogle広告画面から自社商品をピックアップして販促予算を投下

さらに、小売やモール用のGoogle広告セルフサーブオプションを改善することによって、楽天などが商品カタログをメーカーに共有できるようにしたとのことだ。小売の在庫商品に対してメーカーが広告費を拠出して、小売のデジタルメディア上で広告を配信する、楽天でいうところのSales Expansionのようなものを提供可能にしたということだろうか。メーカーにとっては、自社商品の中でプロモーションしたい商品だけをGoogle広告の画面上でピックアップして、予算を付ければ表示がブーストされると考えれば使い勝手は良さそうだ。


ちなみに小売とメーカーには絶妙なバランスがある。小売はメーカーに対して顧客情報は渡したくないと考えている。なぜならば、メーカーがダイレクトに顧客にアプローチできてしまうと、中抜きで直販されてしまいかねないためだ。そこでファーストパーティーデータに対するファイアーウォールを挟んだ上で販促予算だけを投下し、その結果は商品単位の広告効果計測レポートが出力できれば、双方にとってよき落とし所と言える。


YouTubeでのオフサイト配信が可能に

今回の発表で最もわかりやすいのは、YouTubeでのコマースメディア/リテールメディアの広告配信だろう。小売が会員の購買データなどを利用してGoogleのDSP「DV360」を通じてYouTubeに配信するメニューを組成できるようにするものだ。小売が運営するリテールメディアにとっては、オフサイト配信を圧倒的に訴求力の強いものにできるはずだ。以前の発表を基にすると、おそらく条件次第では店舗での購買効果測定も可能だろう。


日本で言えばFez社が「Urumo Ads」として、ドラッグストアの購買履歴等を利用して独自システムでYouTube広告配信を行う取り組みが存在している。今回のGoogleの発表は、個々の小売がそうした広告配信を展開しやすくするものと推察される。購買履歴データなどからターゲットユーザーを抽出してセグメント化し、広告プラットフォームにアップロードする、いわゆるカスタムオーディエンスは大変に面倒なものだった。購買履歴データから条件に則ってリアルタイムにどんどんターゲットユーザーが自動追加されていくならば、その価値は非常に大きいだろう。


店舗とメーカーに向けた待望のソリューション

リテールメディアは業界内で引き続き注目を集めているが、実際の広告売上としてはAmazonセラーや楽天出店者が自店舗の広告予算で商品を上位表示させ、ECモール内での販売促進するためのものという色彩が強い。一方で今回のGoogleの発表は、Amazon以外の小売が独自RMNを展開しやすくしたり、メーカーがメーカー予算で販促広告を出稿し、さらにSKU単位で効果測定できるようにしたと言えるだろう。日本でイメージされる「リテールメディア」は店舗型のイメージが強いため、そのイメージ通りのプロダクト群が登場してきたと言ってよいかもしれない。ただ、リベートや交渉時のパワーバランスなどの個社ごとの複雑な事情や、地域・業種といった難しい溝を埋めることのできる汎用性のあるシステムになっているかどうかは不明だ。


Googleの広告アセットの中で「Search Ads 360」を軸に展開

Googleの広告アセットでいうと、Web媒体の収益化はGAM(Google Ad Manager)、アプリの収益化はAdMob、EC広告主はMerchant Centerを基軸としているように見えるが、コマースメディア/リテールメディアにおいては媒体たる小売向けには「Search Ads 360」を基軸と据えたように見える。これまでは媒体社としてのGoogle検索やBing・Yahoo! Japanなどの(2025/6/20追記)検索エンジン向けシステムとして裏側に隠れていたSA360のシステムを、小売向けに一般化・開放していくと捉えるべきだろうか。この認識が正しければ、まさにファーストパーティーデータ時代の新しいGoogleネットワークが誕生したとも言えるだろう。現在のGoogleのディスプレイ広告事業はプライバシーと独禁法の板挟みになっているが、ファーストパーティーデータ支援システムという立ち位置であればプライバシー側の制約は限りなく小さいはずだ。


まだ不透明な部分が多いCommerce Media suiteだが、今後情報が公開されてきたら追って紹介したい。


関連ページ

メルマガ登録

​新たな記事をメールで配信します

ありがとうございます!

bottom of page