CARTA HDとデジタルインファクトの共同でのリテールメディア広告市場規模の推計データが、今年も発表された。
リテールメディア広告市場規模推計・予測
2022年~2028年

CARTA HOLDINGS、リテールメディア広告市場調査を実施 ~リテールメディア広告市場は2024年に4,692億円、2028年には約2.3倍の約1兆845億円と予測~ https://cartaholdings.co.jp/news/20250123_2/
リテールメディア市場の伸びは続く
リテールメディアは市場自体が伸び続けており、2028年までも強い伸びが続くと予想されている。金額としても2024年には5,000億円に迫っており、市場と呼ぶにふさわしい規模に到達している。この数字を電通「日本の広告費」と照らし合わせてみると、2006年のインターネット広告費全体に相当する市場規模だ。2006年頃のインターネット広告と言えば、リスティング広告が猛烈な勢いで伸長し、各Web媒体社による純広告が白亜紀の恐竜のように闊歩する中、アドネットワークが食べかすを喰らうネズミのように生まれた頃だ。そのアドネットワークの末裔が現在のプログラマティックの世界を築くことを予見できていた者は少ないだろう。
引き続きリテールメディアの中心はECアプリ
「リテールメディア」がバズワード化して久しいが、一般的には店舗内のデジタルサイネージ広告などが連想されるかもしれない。しかし、米国においても日本においても、リテールメディア市場の中心はAmazonをはじめとするECアプリやECサイト(以下、まとめて「ECアプリ」と表記)上というバーチャル世界での広告掲載である。なかでもECアプリ上で検索したキーワードに連動させて自社商品広告をモールの店子が出す、言ってみれば"店子向けリスティング広告"がリテールメディア市場の中心だ。
そもそも「リテールメディア」の定義はあまりにも広い。リアルからバーチャルまで、自社アプリから他社アプリまで、分断されている大陸をデータという貿易船が繋いでいる。購買データを利用したYouTube等の外部メディアでの広告配信やECアプリ内のクーポンバナー、さらに店舗内のデジタルサイネージなどもすべて「リテールメディア」だ。これらは"店子向けリスティング広告"とは異なり、一般的な"広告"の色彩が強いものだ。出稿する広告主としてはメーカーによる販促費や広告費が主となろう。この市場予測におけるEC事業者と店舗事業者のリテールメディアは、ほぼ別物と言っても良いものなので、市場規模もお互いに相関無く成長していくことだろう。このあたりは後日、象限を整理して別記事としたい。
店舗事業者によるリテールメディアが3年間に渡って50%成長を続ける

上のグラフはリテールメディアJAPANがYoYでの成長率にフォーカスして独自に加工を施したものだ。注目すべきは、店舗事業者によるリテールメディアの伸び率である。2023年が対前年比46%の伸びだったのに対し、2024年には対前年比54%の伸び率を示したという。さらに今年は66%伸びると推計されている。店舗事業者は2023年頃から機運の高まったリテールメディア事業に対して徐々に対応準備が進み、手探りの中で試行しているという声が多く聞かれている現状だ。
ECアプリ上でのリテールメディアも天井はまだ見えず
EC事業者に関してはAmazon広告や楽天市場等の大手が以前からある程度大きな売上を誇っているため伸び率としては店舗事業者ほどは高くないものの、今後も22%程度の伸びが続くと予測されている。今後は既にリテールメディア事業を行っている大手ECサイトに出稿する広告主が増加し、オークションプレッシャーが高まって単価の上昇やキーワードカバレッジの高まりなども想定される。さらに、まだリテールメディアに参入していない準大手ECアプリもリテールメディアに参入してくる成長余地もある。たとえばZOZOは2019年からリテールメディア広告を開始しており、メルカリも2023年末から"メルカリ広告"を一部ユーザーでテストしているとの噂も聞かれる。しかし、ECアプリ内でのリテールメディアは自社商品を他社商品よりも目立たせることが主目的であるため、必然的に大手モール内などの競争の激しい環境の中でなければわざわざ広告を出す店子はいない。つまり、競争環境の激しくない中堅以下のECアプリにまでリテールメディアが広がるかといえば、疑問符が付く。これらのECアプリは、先日発表されたAmazon Retail Ad Serviceから外部デマンドを引っ張ってくるような流れになるのかもしれない。
リテールメディア市場の成長鈍化の兆しは、まだどこにも見えない。