今年も2月の年中行事、電通から「日本の広告費」が発表された。ここにリテールメディア市場の数字も示されていることをご存知だろうか?しかし、その2024年の数字は衝撃的なものだった。
リテールメディアの成長率がわずか3.4%!?
「日本の広告費」は、電通が推定・発表している広告の市場規模に関する最も信頼できる統計データだ。まずは日本全体の広告費について見てみよう。2024年の日本の広告費は7兆6730億円となり、前年から4.9%成長と大きく成長した。すばらしい。

次に、本題のリテールメディアについて見ていこう。電通「日本の広告費」に「物販系ECプラットフォーム広告費」という項目が加わったのは2019年のことだ(長いので以後「EC広告費」と呼ぶ)。後で詳解するが、これが"リテールメディアの数字"だ。

以下のグラフはリテールメディアJAPAN編集部が独自にEC広告費を抜き出して視覚化したものだ。なんと、EC広告費の2024年の市場成長率はわずか3.4%にまで落ち込んでしまった。注目される市場であれば、最低でも年間10%は成長を続けたいところだ。

さらにインターネット広告費に占めるEC広告のシェアも独自に視覚化した。2023年まではシェアは上昇していたものの、2024年にはわずかながらシェアは減少し7.34%となった。インターネット広告全体では約10%成長した一方、EC広告費は3.4%成長に留まったため、相対的にシェアが落ちたのだ。人気の縦型動画などにリテールメディアの予算が奪われてしまったのだろうか?リテールメディアの熱気がムンムンと高まっている最中に冷水を浴びせかねないこの数字、そのカラクリを一緒に読み解いていこう。

「物販系ECプラットフォーム広告費」はリテールメディアのすべてではないが、真実でもある
「日本の広告費」における「物販系ECプラットフォーム広告費」は実質的にはAmazon広告や楽天広告が大半を占めていると思われ、リテールメディアの数字の一部と考えて間違いない。
電通報による解説には、以下のような説明がある。
なお、「物販系ECプラットフォーム広告費」という用語ですが、「日本の広告費」においては、生活家電・雑貨、書籍、衣類、事務用品などの物品販売を行うECプラットフォームを「物販系ECプラットフォーム」と呼びます。そして、そのプラットフォームへ“出店”を行っている事業者が、当該プラットフォーム内に投下した広告費を「物販系ECプラットフォーム広告費」と定義しています。 例えば、ECプラットフォーム内で検索をかけた際に上位表示される「PR」商品などもこの広告費に含まれます。逆に、ECプラットフォーム上のデータをターゲティングに活用し、当該プラットフォーム外に投下される広告費は含まれていません。 https://dentsu-ho.com/articles/9205
リテールメディアJAPAN読者向けに翻訳すると、こんな感じだろうか。
ECサイト(アプリ)内のオンサイト広告のみを含み、外部サイトでのオフサイト広告は含まない
オフサイト広告は「インターネット広告 媒体費」に含まれている?
Amazon広告のうちセラー向けのスポンサープロダクト広告やスポンサーブランド広告は含まれるが、外部サイトへ遷移させるAmazon DSPは含まれない
楽天広告のうち出店者向けの楽天RPPは含むが、外部サイト上での楽天データ活用リターゲティング配信は含まれない
小売などの店舗系事業者によるリテールメディアは物販系ECプラットフォームではないので含まない
店舗系事業者の店舗内DOOH(デジタルサイネージ)は含まない
「屋外」に計上されている?
「物販系ECプラットフォーム広告費」は、先日発表されたCARTA HOLDINGS/シード・プランニングによるリテールメディア市場規模調査で言うところの「EC事業者」の数字とほぼ同一の定義だと思われる。
ベン図で示すと、このような関係となるだろう。

昨今の日本で話題になっている「リテールメディア」は、どちらかと言えば有店舗事業者による広告事業がイメージされることが多く、それは「物販系ECプラットフォーム広告費」には含まれていない。ただ実態としては、EC事業者によるリテールメディアの方が有店舗事業者によるリテールメディアよりも遥かに市場が大きいのが足元の実情だ。つまり、現在の市場規模としては実態を表していると言えるだろう。
リテールメディアの急成長は止まったのか
現在大きなシェアを持つAmazonや楽天などのEC系事業者によるオンサイトのリテールメディアの成長が鈍化したことは、数字から見て間違いないだろう。これからAmazonや楽天を新規利用し始めるというユーザーは、スマホを初めて持った学生やガラケーからスマホに乗り換えた高齢者くらいだろうから、もはやユーザー自体の増加は期待できないからだ。ユーザーが増えなければ当然インベントリは増えない。そんな環境下で売上を増やすためには、モール出店者による広告出稿率を引き上げることに加え、キーワードのカバレッジの引き上げ、広告落札単価(RPM)の引き上げといった部分にしか伸びしろが無いのだ。